その仮面、剥がさせていただきます!
夜も更けてきたカフェの中は人も疎らで、店内に流れるBGMが心地よく聞こえてくる。

そんな中、奈緒子はゆっくりと話し始めた。

「最初は夢ちゃんに言われて嫌々だったの。でも、陸人のことを好きになるのにそう時間は掛からなかった。りっちゃんも一緒に居れば分かるでしょ?陸人の優しいところとか、いつも彼女のことを一番に考えてくれるところとか」

あたしは何も言わず、掴んでいたカップの中のココアを口にした。

「でもね。好きになればなるほど分かっちゃうんだよ。その優しさって私にじゃなくて『彼女』の私だからなんだって……」

奈緒子の言っていることは十分すぎるほどよく分かる。

あたしだって同じことで悩んだし傷ついた。

「この時点で大抵の彼女たちは陸人に迫るの『私のこと好き?どのくらい好き?』ってね。もちろん私も同じことしちゃって……」

奈緒子は口元を上げて微笑もうとしているけど、それは悲しい笑顔だった。

「それで?リクはなんて……?」

「何も言わなかった。目を逸らされた時に思ったの。ああ。この人、私じゃなくって女なら誰でも同じことするのかって。気づいた時にはもう遅くてね。私、陸人のこと凄く好きになり過ぎちゃってて。今から思うと恥ずかしいけど……陸人に迫ったの」

奈緒子は一呼吸置き、コーヒーを口に運んだ。

「陸人その時なんて言ったと思う?」

「…………」

「『君がしたいならいいよ』……って。女のことバカにしてるのかな。それとも私が魅力的じゃないから?」

奈緒子の頬に一筋の涙が伝う。

「りっちゃんはどう思う?今、陸人と一緒にいて、彼のことどういう風に感じてる?」

「あたしは……」

今、正に勘違い中とは言えず、黙り込む。

奈緒子の気持ちは痛いほど分かる。

まるであたしの心の中を代弁してくれてるみたいで悲しくなってくる。

「やっぱり同じなんでしょ?」

奈緒子の言葉にコクンと頷いた。


自分は他の彼女たちとは違う。

あたしだけじゃなく、みんなそう思いたい。

あたしの行く末もきっと奈緒子と同じ……


「それだけじゃないの」

手にしたカップの中のココアを見ていた顔が上がった。




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