その仮面、剥がさせていただきます!
三日ぶりのシャワーを浴びて濡れた髪をタオルで拭きながらキッチンに行くと、拓にぃが食卓に食事を並べていた。

珍しい光景を黙って眺めていると、あたしに気付いた拓にぃが「食べろ」と椅子を引く。

「これどうしたの?」

お皿に盛りつけられたお料理は、コンビニで買ってきた惣菜じゃないってことぐらい分かる。

「俺だってやれば出来るんだぞ」

「拓にぃが作ったの?」

「ん?ま、まあな」

茶碗に盛られたホカホカのたけのこご飯に柔らかそうなロールキャベツ。それにポテトサラダまである。

「せっかくだけど、あんまり食欲がない……」

椅子に座るのを躊躇っていると、拓にぃに背中を押されて無理やり座らされた。

「まあ。そう言わずに。一口でもいいから食べてみろよ」

箸を握らされて、仕方なく一口だけ口に入れた。

「いけるだろ?」

「うん……」

拓にぃがこんな料理が出来るのが意外だけれど、口の中に広がる味に何故だか懐かしさがこみ上げてきた。

「実は……黙っててって言われたんだけどな、これ陸人が持ってきたんだ。俺たちがろくなもん食ってないって思ったんだろうな。あいつなりに律子のこと気にかけてんだよ」

「そう……」

リクが作った料理だったんだって思うと複雑な気持ちになる。

嬉しい反面、自分のことを放っておけって言うぐらいなら、あたしのことも放っておいてくれればいいのにっていう怒りも出てくる。

どうやら、やっぱりあたしは素直にはなれないらしい。

箸を置いて席を立つと呼び止める拓にぃを無視してまた自分の部屋に引きこもる。


このままじゃいけないんだよ!

そう分かっているのに、自分が思い通りにならない。






「律子……」

ご飯も食べずにまた部屋に引きこもったのが余程心配だったのか、拓にぃが部屋に入ってきた。

「拓にぃ仕事は?」

「これから出る。その前に少しいいか?」

ベッドを背もたれに座っていたあたしの横に拓にぃも座る。

「何……」

「ん……あのな。陸人とお前の事だけど」

「うん……」

「律子はどうしたいんだ?こんなとこにずっといたって何にもならねぇってことぐらい分かるよな?」

「うん……」

「陸人は陸人の考えがある。もちろん律子には律子の考えがある。そうだろ?」

「うん……」

「お前が陸人のことを大切に思ってるんだったら答えは簡単なんだけどな」

拓にぃはあたしを見て二シャッと笑った。

「簡単じゃないよ。いくら考えたって答えなんか出ないもん」

「そんなの一発で出るわけねぇよ。数学の問題にしたっていくつもの式で答えが出るだろ?だから、お前の出来ることから一つずつしていきゃいいの」

俯いたあたしの頭に拓にぃは手を乗せると部屋から出て行った。


一つずつ。出来ることからか……


あたしはリクの為に何ができるんだろう。


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