その仮面、剥がさせていただきます!
リクのお兄さんから教えてもらった病院の前に立っていた。


あたしに出来ることがあるのかどうかはわからないけど、何もせずただ部屋の中で答えの出ない問題を解いているのはやっぱり性に合わない。


少し躊躇いながらも、誰にも知られないように覗くだけと自分に言い聞かせて中に入る。

あたしはこの病院にリクのお母さんの病状とリクがお見舞いに来たかどうかの確認をしにきた。

リクがお母さんに会いに来ていれば、もうあたしからリクに何も聞かない。


エレベーターが開くと、ナースステーションの前を通って目的の病室を探した。


531……

あった。


ドアの横には小型テレビのような液晶画面が張り付いていて、その画面を押すと名前に切り替わった。

『海道涼音』

一人部屋か……

大部屋だったら他の患者さんのお見舞客を装って中に入ることができるのに、個室だとそうはいかない。


どうしよう……

そう思っていた時、ドアが開いてリクのお兄さんが出てきた。

手には花束を持っている。

「お見舞い。来てくれたの?」

お兄さんは優しい顔で言ってくれるけど、見ず知らずのあたしがリクのお母さんに会うのも図々し過ぎる。

っていうのは表向きで……

お兄さんが手にしている花を見て、お見舞いに手ぶらっていうのも悪い気がした。


「あの……ちょっといいですか?」



廊下の突き当りにあった長椅子に座るとすぐお兄さんに尋ねてみた。

「ここにリク。来ましたか?」

「まだ……来てないけど。陸人に言ってくれたんだ」

そっか……やっぱり来てないんだ。

話しにもならなかったとは言えず、言葉に詰まる。

落胆したあたしの内心を理解したのか、お兄さんは手に持っていた花束を自分の方に向け「キレイでしょ?」と話しを変えた。

「花瓶借りて来ましょうか」

「あ……だったら生けてくれたら助かるんだけど。花のことなんてしたことないから」







借りて来たクリスタルの花瓶の中にそのままの形で花を挿してから少し形を整えた。

簡単な気もするが。これで……いいよね。

「花瓶に挿すとまた感じが違いますね」

誤魔化すように愛想笑いで振り返ると、眩暈がして足元がぐらついた。

「危ない!」

後ろにいたお兄さんに支えてもらって転ぶことは避けられたけど、まだ身体がフワフワと揺れていた。

「顔色が悪いけど……」

「い……え。大丈夫ですから」

周りの景色がグラグラと揺れ出し気分が悪くなる。

三日間もろくに寝てないしご飯も食べてない。

頭の中はリクの事だらけで、自分の体調の変化にも気づいていなかった。


支えてくれたお兄さんの手を自分から外すと「本当に大丈夫ですから」と笑顔を作る。

背の高いリクのお兄さんを見上げた瞬間……


目の前が真っ暗になった。


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