その仮面、剥がさせていただきます!


注文したミルフィーユに躊躇なくフォークを刺すと原型がないほどに崩れてしまった。

あたしは即座に後悔する。

パイ生地が三層になってあるソレを食べるのは容易じゃないのよ。



あたしと同じミルフィーユを頼んだリクだってきっと同じに違いない。


そう思い顔を上げると、リクの手元を見た。


リクのミルフィーユは三分の一減っている、って言うのがばっちり分かるほど、四角い形が残っている。


お弁当を食べていた時も感じてたんだけど、箸の使い方がとても綺麗。箸だけじゃない。例えば、ドアを開ける仕草だったり、椅子を引く手の動き……どれを取っても見惚れるほど、動作がキレイなのだ。

リクはジッと見ていたあたしに気付いて、ん?という表情をした。


こういうふとした動きも完璧で隙がない。


恐ろしや~雑誌効果!!


「美味しいね」とリクはお得意の王子スマイル。


あたしも「うん」と無理やりの笑顔で返すと、再びミルフィーユとの格闘に取り掛かる。



いつもなら、口の中に広がる甘さと美味しさで、幸せいっぱいになれる瞬間なのに、この時ばかりは食べることだけに神経を集中させていた。


「リツっていつも一生懸命だね」


しまった。

リクに見られているのにも気づかないほど、ケーキに夢中になっていた。


「美味しいけど、食べにくいかな」

誤魔化すように笑うと、リクもニッコリと笑い返してくれる。


こういうの、なんか安心する。

潜入捜査とはいえ、変な奴に潜入だったら三日ももたなかったかも……


例えば、春樹とか……


春樹の憎ったらしい顔が浮かぶ。




絶対にイヤ!!!!




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