その仮面、剥がさせていただきます!
可愛いよって見え透いたお世辞を言われるより、似合ってるって言われた方がそりゃ嬉しいけど……

今更?って思いもあるけど、マニュアル王子に言われても素直に喜べない捻くれ者のあたしがいる。

誰にでも言ってるんじゃないのかってヒガミ根性もあるんだけど。



リクがお風呂に入った後、あたしはこっそりと隣の自宅に戻ってみた。

あれからのことも気がかりだったけど、拓にぃが言いかけたことの続きも聞いてみたかったし。

すんなりと開いた玄関のドアをそろりと閉め、音をたてないように廊下を歩く。

鍵のかかってなかった玄関に、あたしのことを不用心だのなんだのと罵ってたのに、自分はどうなのよと言いたくなる。

リビングに続くドアを開くとビール缶片手に立っている拓にぃと目が合った。


「今まで何をしてたのかな?」

「別に……ご飯ご馳走になってただけだし」

「へ~シャンプーの匂いバリバリさせて、その言い訳ってなくない?」

「そ、それはリクがお風呂入ってけって……」

「ふ~ん。で、着替えまで借りちゃってるわけ」

喉を鳴らしてビールを美味しそうに飲むと、つまみの袋に手を伸ばす。

何かを疑っている目をしている拓にぃの前に座った。


「あれからあいつ、どうしたの?」

「春樹か?ん、すぐ帰ってったからオレは知らねえよ」

「そうなんだ」

大好きなリクに殴られて、少しはへこんでるんじゃないのかって思ったけど……

「なんだ?ファーストキッスを奪われた春樹のことが気になってんのか?」

「それはナイ!恨んで呪い殺してやろうかって思ってる」

「たかが軽いチュウで殺されてたら、オレはいくら命があっても足りねぇな」

それって、あたしに対しても軽いチュゥぐらいはできるってことだろうか。挨拶程度って言ってたし。

わっ……キモっ!

想像する手前で思考回路が異変を起こしたわ!

「お前。また何か変な妄想してただろ」

「別に。それより拓にぃ言いかけてたよね。完璧主義男の落とし方って何?」

それが聞きたくてわざわざこっちに帰ってきたと言っても過言ではない。

拓にぃの有難い?教えを蒙ろうとあたしは身を乗り出した。

拓にぃのは鼻の頭をカリカリとかいてニヤリといやらしい笑いを浮かべる。

「それはもう検証済みだ。春樹が律子にキスをした。それを見た陸人は怒って春樹をぶん殴り、そしてお前を連れ出した」

「それのどこを検証したのよ」

あたしがそう言うと、これだから恋愛素人はとバカにしたように話しを続ける。

「完璧主義の奴は怒りを露にしたときに本性が見えるって知ってっか?陸人が本気で怒ったのはお前が春樹にキスされたから。つまり。陸人は律子のことが好きってことになる」


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