揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
野球コーナーで、グローブを見ている大翔君。

半月ぶりぐらいに見た彼は、一段と大人っぽくなっている気がした。


そんな彼を見ていたら、忘れかけていた感情がだんだんと蘇ってきたようで。

胸が早く脈を打ち始め、時折ぎゅうっと締め付けられる。


いつの間にか、涙さえも零れそうになっていて。


懐かしさのせいなのかとも思ったけれど、きっとこれは違う。

私が、思い出しちゃいけなかった想い。


今でも、大翔君が好きなんだっていう気持ちだったんだ。


「どれにするか決まった?」


棚の陰から、大翔君のお母さんが現れた。

相変わらず若くて綺麗な彼女は、ファーストミットを見ている彼の隣に並んだ。


そして不覚にも…私は、彼女と目を合わせてしまったんだ。


見てたの、バレちゃった!?


くるっと大翔君達に背を向けると、私は出口に向かって全速力で走りだした。

私の姿を見つけたら、大翔君が嫌な顔をするかもしれないから。


迷惑掛けないって心に誓ったし、それに…迷惑そうな顔をする彼を見るのが怖いから。


バッシュコーナーに置き去りにした真吾の事を忘れるぐらい、私は懸命に走っていた。

店を出て、そのまま人だかりをかき分けて進んで行く。


どこまで走るとか、決めてる訳じゃない。

ただ、1歩でも2歩でも大翔君から離れていきたかったんだ。


ここまで来ればいいかな……?


かなり走ったところで、一度立ち止まって呼吸を整えようとした。


その瞬間だった。

背後から、いきなり右手首をつかまれた。


「きゃっ!?」


驚いて振り返った先には……。

一番会いたくて、そして一番会いたくなかった人の姿があった。
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