揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「何で、逃げるんですか?」


大翔君は、私と違って息を乱す事なく立っている。


「……」


そんな彼に、私は何も言葉を返せなかった。

息が荒くてうまく話せないのもあるけれど、言葉が見つからなくて。


だって、まさか追いかけて来るなんて思ってなかったし。

何で逃げるかなんて、訊かれるとも思ってないし……。


「俺を見て…逃げたんですよね?」


少し怒ってる感じの声。

何で、大翔君が怒るのよ?


「悪いけど、足には自信あるから。逃げられないですよ?」


深い意味は無いんだろうけど、その言葉にドキッとさせらせた。

相手は小学生なのに。


「別に、逃げてなんか……」


どうしても、まともに顔を見られなかった。

だって、こんなにも彼にときめいてしまってるから。


せっかく、忘れようとしてたのに……。


「じゃあ、どうしてこっちを見てくれないんですか?そんなに…嫌いですか?俺の事」


右の手首は、つかまれたままで。

次第に、つかむ彼の手に力が入ってくる。


「嫌いじゃ……」


嫌いなんかじゃない。

それどころか、ホントはこんなにも好きなのに。


だけど…それは、言ってはいけない言葉。

だって、こんな私を彼が好きになってくれる訳がないから。


「なら……」


そこまで言って、彼は一度ため息をついた。


「なら、どうして逃げるんですか?俺、何かしました?」


真剣な眼差し。

迷惑じゃないのかな?私の事。


見ててもいいの?

話しかけてもいいの?


好きになっても…いいの?


そう訊きたいのに、やっぱり言葉が出ない。

言ってしまったら、きっともう引き返せなくなるから。


何事もなかったようには、できないもの。
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