揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「この間から、避けてませんか?俺の事」


「別に……」


「映画館で会ってから、おかしいですよ。何で…ですか?」


真っ直ぐに見てくる大翔君の瞳に、つい吸い込まれそうになる。


ダメ……。


大翔君は、別に私を好きな訳じゃないから。

いくら好きになったって、どうにもならないじゃない。


「嫌…なの」


「え?」


私の出した声はあまりにも小さくて、彼の耳には届かなかった。

だからもう一度、声を振り絞る。


「嫌なのっ」


「由佳…さん?」


「もうこれ以上、私に関わらないでっ!」


周りがこっちを振り返るぐらい、私は大きな声でそう言っていた。


でも、一番呆気に取られているのは大翔君。

私がどうして怒ってるのか分からないようで、


「どういう…意味ですか?」


って、訊き返してくる。


「だから、私の周りをうろちょろしないで!」


イライラして、そう怒鳴ってしまった。


だって…苦しんでるのは私ばかりで。

その気がないのに私の心を支配していくのが、どうにも悔しいから。


「それって……?」


そう、大翔君が言いかけた時だった。


「由佳!?」


と声がして、人込みをかき分けて真吾が駆け寄って来た。


「急にいなくなるから、心配したよ」


そう言った真吾の顔が、一瞬にして曇った。

彼の視線は、私の手首をつかむ大翔君に向けられている。


「君は……」


思い出したのか、何か言いたげな顔で大翔君を見ている。

その視線に気づき、大翔君はやっと手を離してくれた。


まだ小学生なのに、力がけっこう強い。

どうあがいても、彼の手を振りほどけなかった。


彼も…れっきとした男なんだ。
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