揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「とりあえず、家…おいでよ?」


彼女の耳元で、そう提案する。

心配そうな顔で見てくる彼女に、


「母さん、出掛けてるから。帰って来るのは夜中だから、大丈夫だよ」


と、優しく声を掛けた。

ほっとした顔を見せる彼女がまた愛しくて、思わず囁かずにはいられなかった。


「一緒に、お風呂入る?」


「……!?」


次の瞬間。

彼女は俺の腕を振り払って、3~4歩後ずさってしまって。


何か言いたげな顔で俺を見ているのが、あまりにもおかしくて。

つい、吹き出してしまう。


「嘘だよ。とりあえず、風邪引くから行こ?」


疑いの眼差しを俺に向けながらも、彼女は小さく頷いた。


その時、俺は確信していたんだ。

彼女に会えるんだったら、きっと何時間だって待てるって。


自転車を起こしてやり、俺はそのまま曳いて行く事にした。


「あ、ありがと」


自転車とは反対側に、由佳さんは並んで歩いている。


「あの…さ」


言いにくそうな、彼女の声。

何の話だろうかと、俺は黙ったまま顔を向けた。


「聞か…ないの?遅れた理由」


気にならないと言えば、それは嘘になる。


だけど…そんな顔されたら聞ける訳がない。

今にも泣き出しそうな、その顔を見てしまったら。


「由佳は…来てくれたから。それでいいよ」


つい、大人ぶってそう答えてしまった。

そんな事を気にするような子供と思われたくなくて、意地を張ってしまう自分がいる。


「ありがと……」


でも、そう言って俺の服の裾をつかむ彼女を見たら。

やっぱり、これで良かったんだと思った。


俺は由佳を信じてるから。

だから、こうして来てくれただけでいいんだ。


そう思いながら、俺は彼女の歩幅に合わせて歩き続けた。


雨は…まだまだ止みそうにない。
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