揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
その時だった。


カチャッと音がして、彼女がリビングに姿を現した。


「お風呂…ありがとう」


見慣れた俺のスウェットに身を包み、生乾きの髪のままゆっくりと近付いて来る。


その顔は、まだ強張っているようで。

彼女の心情を見せられているみたいで、正直辛かった。


「そこ、掛けて。コーヒー、温かいのと冷たいの、どっちがいい?」


あえて彼女の表情に気付かない振りをして、俺はわざと明るくそう尋ねた。


「あ、温かいの……」


いつもの、明るくて元気な由佳さんの面影は無かった。

俺に怯えているようで、話す声にも力が無い。


好きな人にこんな顔させて、何やってんだよ俺!?


自責の念に駆られながら、俺はホットコーヒーを二つ用意した。

砂糖とミルクを一緒にトレーに乗せ、彼女の元へと戻る。


何か言いたげな彼女から視線を逸らし、テーブルの上にコーヒーを並べる。


目が合ったら別れ話をされそうで。

そのまま冷蔵庫へとお茶菓子を探しに行こうと、俺は彼女に背を向けた。


その…瞬間の事だった。


「あのさ、大翔君」


ビクッと体が震えたのが、自分でも分かった。

早鐘のように鳴り続ける心臓の音が、やけに大きく聞こえてくる。


「……何?」


背を向けたまま、そう言うのが精一杯だった。


たわいもない話であって欲しい。

そう、願わざるを得なくて。


「あのね……」


言いにくそうな、彼女の声。

その声が、俺の不安を余計に駆りたてる。


「……確か、シュークリームがあったから。由佳、食べるよね?」


その雰囲気を壊したくて、俺はわざとはしゃぐようにそう尋ねた。

彼女に、背を向けたまま。


だけど…由佳の答えは、俺の問い掛けとは異なっていて。

聞きたくなかった言葉が、愛しい彼女の口から放たれてしまったんだ。


「私…やっぱり大翔君とはつき合えない」


……と。
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