揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
しばらくの間。

彼は、背中を向けたまま黙っていた。


聞こえてない訳じゃないと思う。


ただ、あまりにも突然過ぎて。

理解するのに時間が掛っているんだろう。


彼が背中を向けていてくれて、正直ホッとした。

正面を向いていたら、言い出せなかったかもしれない。


「……やっぱり、嫌だった?」


こっちを見ないまま、彼は少し震えた声で尋ねてきて。


「え……?」


何の事か咄嗟に思いつかず、そう訊き返した。


「さっき、無理に抱こうとした事……」


そして、ゆっくりと振り返る彼。

その双眸は…涙で潤んでいた。


ドクンッ


その表情が、心臓を鷲掴みされたかのように苦しくさせる。


泣いてる……?大翔君が?


彼の涙を見たのは、もちろん初めてだった。


誰より大人で、誰よりしっかりしていて、誰よりクールな彼が…泣いている。


折れてしまいそうな心を懸命に保ち、私は真っ直ぐな彼の瞳から目を逸らした。
< 226 / 298 >

この作品をシェア

pagetop