揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「別に…それだけじゃないから」


目を合わせると、決心が鈍ってしまいそうだから。

だから、私は彼を見なかった。


手元に温かいカップを引き寄せ、カップの中の黒い空間をただ眺めていた。


「じゃあ、何で別れるの?」


ゆっくりと、彼が近づいて来るのが分かる。

距離が縮まるにつれ、私の鼓動が速くなっていく。


「だって……」


そこまで言って、私は気付いてしまったんだ。


彼と別れる理由が、諒斗の事以外に無いんだっていう事を。


「『だって』って、何……?俺は、どうすればいいの?どうしたら、別れなくてすむの?」


そう言って、彼は私の横に立ち止った。

そっちを見なくても、痛いほど彼の視線を感じる。


見ちゃ…ダメだ。


見たら、私は別れるのをやめてしまうかもしれない。

「嘘だよ」って言って、彼を抱きしめてしまうかもしれない。


でも…それじゃダメなんだ。


「無理…だったんだよ」


私は嘘をつくのが下手だって、昔からよく言われる。

だから、もしかしたらもうバレてるのかもしれない。


「私達、初めっから無理だったんだよ……」


学芸会でも、いい役は回って来なかった。

いつも、セリフはみんなと一緒。


だって私は、自分の偽り方をよく知らないから。

だから、彼には通じないかもしれない。


「だって、高校生が小学生とつき合うなんてあり得ないでしょ?」


私の、一世一代の大芝居。


今の私は…うまくやれてる?
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