揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「でも、打ててホント良かったよ。由佳の声援のおかげだね」


「私ができる事って、応援する事ぐらいだから……」


「それが、すごく嬉しかったんだよ。あそこでガタッて崩れなかったのは、ホント由佳のおかげだから」


そう言って、彼は隣に座る私の左手に右手を重ねてきた。

自分の全神経がそこに集中してしまったかのように、だんだんと左手だけが熱を帯びてくる。


「みんなが頑張ったからだよ。頑張って守って、みんなで攻撃して。それで、あのランニングホームランがあったから」


小学校のグラウンドで試合をしてるから。

甲子園やプロ野球みたいに、柵越えのホームランがあるわけじゃない。


少年野球でホームランと言ったら、いわゆるランニングホームランが主流になる。


「あれは、ここ最近で一番のバッティングだったかも。由佳とここに来れるって思ったら、頑張れたよ」


「ホントにエロだね、大翔く……」


言いかけて、慌てて右手で口を押さえた。

もう少しで、また『君』を付けてしまうところだった。


「えっ?何?」


分かってるくせに、わざと聞き直してくる。


結構、性格悪いような気がしてきた……。


「何でもないですっ!」


そう言って、誤魔化すように私はそっぽを向いた。


すると、ぐいっといきなり左腕を引かれ。

私は、隣の大翔君に膝枕されるような体勢になってしまった。


「やだっ、ちょっとっ」


慌てて起き上ろうとすると、頭を手で押さえつけられてしまって。

どうにも、起きるに起きれない。


「また、大翔君って言おうとしなかった?」


私の長いストレートの髪を、彼はヤラシイ手つきで右の耳に掛けてきた。


彼に背を向けているから。

どんな顔をして、何をしようとしているのかが全く分からなくて。


ただドキドキして、ぎゅっと体に力を入れることしか出来ない。


「また、名前呼ぶ練習しないとダメ?」


彼の吐息が耳にふっと掛るだけで、私の体の奥がキュンっとしてくる。
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