揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
始業式が終わり、帰りに沙希とマックでお昼を食べた。


お昼過ぎからバイトが入っている彼女と早目に別れ、私はそのまま家路について。


「ただいま」


玄関を開けるとすぐ、パタパタッというスリッパの響く足音がして。

お母さんが、慌てた様子で姿を現した。


「ちょうど良かった、由佳。これ、克也に届けてきて」


お母さんの右手にあるのは、茶色い野球のグローブ。


「え?どこに?」


「小学校よ。さっき練習に行ったんだけど、あの子肝心のグローブ忘れてるの」


「何しに行ってんのよ、全く……」


弟の克也は、今年小6。

4年生から入ってる野球部で、今年はレギュラーになれたらしいんだけど。


しょっぱなからこれじゃ、ヤバイじゃん。


「お母さんこれから打ち合わせ行くから、お願いね」


よく見れば、お母さんは出かける格好をしていて。

いつもと違って、綺麗にしている。


お母さんは、フリーのライターをしていて。

いろいろと取材をして来ては、家で必死に原稿を仕上げている。


どうやら今日は、出版社に行くみたい。


「分かった。着替えたら行って来るね」


そう言って家に上がろうとしたら、


「すぐに持ってかないと、克也困るじゃない。今からお願い」


と、グローブを手に押し付けられ、代わりに手にしていた鞄を取り上げられた。


「これ、部屋に置いといてあげるから。今すぐお願いね」


すごい笑顔なんだけど、その口調には…有無を言わせない威圧感があって。


「……分かった。行って来ます」


そう、言わざるをえなかった。
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