闇夜に笑まひの風花を
「婆様は舞姫として城に上がり、当時国王だった爺様に見初められた。それで父上がお生まれになり、やがて母上と結婚した。父上が国王の地位にお着きになったのは、俺が小さい頃だった。
しばらくして、爺様がお亡くなりになったんだ。婆様は実家に戻り、ひっそりと隠居生活を送ることにした」

杏が彼の両親だと思っていた隣町に住む彼らは、彼の本当の祖母、泉の世話をするために派遣されていた人たちらしい。
何故隣町かというと、元は泉に見つからないようにするためだったという。
そして、いつしか遥の両親という役を負うことになった、ということだ。

遥は苦笑のような、自嘲のようなものを唇に浮かばせた。
瞳が、悲しい色を映し込む。

「それから、母上がお亡くなりになって、俺は婆様に引き取られたんだ。
さっきも見て分かっただろう?父上は、俺をあまり好いていないからな」

けれど、やがて泉は息を引き取った。
そして父王はあまり好いていなくても、息子を放っておくつもりはなかった。

「もともと、婆様が亡くなったときに城に帰えるよう言われてたんだけど、杏を独りにするわけにはいかないだろ?」

遥は戯けたように笑ってみせた。

「杏は、俺と一緒に引き取られたんだよ」

否、もしかしたら、彼女のために遥も一緒に引き取られた、という方が近いかもしれない。

「……どうして?」

その質問に、答えは一つだけ。

「__君は、俺の遊び相手だったから」

遊び相手。
遥の遊び相手。
小さい頃からの。

それはきっと、彼女が記憶にないときにこの城で過ごしたということ。

杏は驚きに目を瞠って、彼を見つめた。
声が、指が、足が、震える。

「は、るは……知ってたの?
私が……私の、正体を……」

「知ってるよ。
もう、生まれたときから傍に居たからな……」

「っ!!……」

杏は、思わず彼に詰め寄った。

だって、王子なら尚更、言ってはいけなかったのに。

「知ってて!知ってて、あんなことを言ったのっ!?」

私が、受け入れられないことを知っていて……。

『好きだ』

蘇るのは切ない想い。
彼はきっと、分かっていた。

だからこそ、今まで十三年間も想いを告げたことはなかったのだろう。
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