闇夜に笑まひの風花を
「あ~ら。こんなところで何をしてるの?」
ぞっとするような声と、ふっと落ちた影に気づいて顔を上げると、綺麗に着飾った那乃が蔑みの目で見下ろしていた。
「盗み聞きなんて、育ちが知れるわね。
舞姫にも選ばれて、裕様にも遥様にも気に入られて両手に花ってところかしら?」
もう苦しい。
本当に気分が悪くなってきた。
「那乃……違うよ……」
杏は力なく首を横に振る。
けれど、那乃は止まらなかった。
「どうやってお二人を落としたの?やっぱりカラダかしら。ふふ、そうよね、あなたに渡せるものなんてそれくらいだものね?」
「……違う……っ」
「今までどこに行ってたの?今日は裕様のところ?大変ねぇ?」
いやらしいまでの妖艶さ。
そんな笑いに、杏は背筋が寒くなる。
「違うよっ!」
「純真無垢な顔して、毎日遥様に育ててもらってたの?年頃の男女が一つ屋根の下に二人きり。いやらしいわね~」
「違うったら!!
那乃酷いよ、なんでそんなこと言うの!? ずっと私をそんな目で見てたの!?」
耐えきれずに、杏は目に涙を溜めて那乃を睨む。
けれど、杏に負けないくらいの声量で那乃は怒鳴り返した。
自制なんてものは、もうなかった。
「被害妄想も大概にしなさいよ!
酷いですって!? 私から遥様を奪っておきながら、よくそんな口が聞けるわね!?」
彼女の剣幕に、杏はビクリと震えた。
「な……んの、こと……?」
「ふふ、記憶喪失も便利なものね。ぜ~ぇんぶ忘れちゃうんだもの」
狂気に塗れた妖しい微笑。
杏を傷つける毒を吐く赤い唇。
「まあいいわ。戯れなんて飽きるまでだもの。今だけの花、せいぜい咲かして派手に散るが良いわ」
呆然と中空を見つめる杏は、もう何も見ていなかった。
そんな彼女を寒い廊下に残して、那乃は足音高く去っていく。
やがてその音が聞こえなくなると、杏は壁に預けてどうにか支えていた身体を、ずるずると力なくしゃがみ込んだ。
ぞっとするような声と、ふっと落ちた影に気づいて顔を上げると、綺麗に着飾った那乃が蔑みの目で見下ろしていた。
「盗み聞きなんて、育ちが知れるわね。
舞姫にも選ばれて、裕様にも遥様にも気に入られて両手に花ってところかしら?」
もう苦しい。
本当に気分が悪くなってきた。
「那乃……違うよ……」
杏は力なく首を横に振る。
けれど、那乃は止まらなかった。
「どうやってお二人を落としたの?やっぱりカラダかしら。ふふ、そうよね、あなたに渡せるものなんてそれくらいだものね?」
「……違う……っ」
「今までどこに行ってたの?今日は裕様のところ?大変ねぇ?」
いやらしいまでの妖艶さ。
そんな笑いに、杏は背筋が寒くなる。
「違うよっ!」
「純真無垢な顔して、毎日遥様に育ててもらってたの?年頃の男女が一つ屋根の下に二人きり。いやらしいわね~」
「違うったら!!
那乃酷いよ、なんでそんなこと言うの!? ずっと私をそんな目で見てたの!?」
耐えきれずに、杏は目に涙を溜めて那乃を睨む。
けれど、杏に負けないくらいの声量で那乃は怒鳴り返した。
自制なんてものは、もうなかった。
「被害妄想も大概にしなさいよ!
酷いですって!? 私から遥様を奪っておきながら、よくそんな口が聞けるわね!?」
彼女の剣幕に、杏はビクリと震えた。
「な……んの、こと……?」
「ふふ、記憶喪失も便利なものね。ぜ~ぇんぶ忘れちゃうんだもの」
狂気に塗れた妖しい微笑。
杏を傷つける毒を吐く赤い唇。
「まあいいわ。戯れなんて飽きるまでだもの。今だけの花、せいぜい咲かして派手に散るが良いわ」
呆然と中空を見つめる杏は、もう何も見ていなかった。
そんな彼女を寒い廊下に残して、那乃は足音高く去っていく。
やがてその音が聞こえなくなると、杏は壁に預けてどうにか支えていた身体を、ずるずると力なくしゃがみ込んだ。