闇夜に笑まひの風花を
幾度も往復する手の甲。
その冷たさが、杏を落ち着けていく。
カタカタと小刻みに震える指を握り込んで、深呼吸をした。
縮んだ肺に新しい酸素を注ぎ込む。
やがて、身体の震えが収まり、呼吸が穏やかになった。
不思議と、もう怖くなかった。
心に余裕ができると、裕の指の冷たさの異様に気づく。
瞳にも、昼に見ている強い光が戻らない。
ベッドの上。
組み敷かれているという状況は変わらないままに、杏は裕の顔に指を伸ばした。
けれど、王子に気軽に触れるのはいけない気がして、手を引っ込めようとする。
その手を、裕が止めた。
まるで雪遊びをした後のように冷たい指を、温めるように杏と絡ませる。
そして、それを自らの頬に当てた。
「……裕様……」
殿下ではなく、名が口を突く。
どうしてだろう。
それが自然に思えた……。
一瞬目を瞠った裕はすぐに目を細め、泣きそうに笑った。
愛おしそうな瞳。
哀しい微笑。
ああ、ハルと同じだ……。
その寂しさに胸を軋ませる。
杏は、腕を伸ばして裕を抱き締めた。