闇夜に笑まひの風花を
「__っ」
キャパシティを超える情報に、杏は眩暈を起こして彼の胸の中に倒れ込んだ。
何も映さない瞳を見開いて、杏は荒い呼吸を繰り返す。
その激しく上下する肩の上、耳朶に裕が歯を立てた。
「……ぁっ……」
痛みのない、甘噛み程度の力。
けれど、当たる熱い吐息とざらついた感触に、杏は我に返る。
そして、混乱を極めた彼女の瞳が、金色に輝いた。
「__っ、エザ__」
脳裏に瞬いたのは、稲妻の光。
理性を失って、口を突いて出そうになった言葉を、杏は慌てて口元を押さえて止めた。
私は一体何を……。
自分で自分がしようとしていたことに愕然とする。
『エザラ』とは、アミルダ語で発動の意味。
脳裏に思い描かれたものを実現させる呪文。
もし杏が最後まで唱えていたら、おそらく裕は死んでいただろう。
黒焦げになるのか、感電死するのかは定かではないが、理性を失った彼女に手加減できるほどの余裕はなかった。
裕は、杏と触れたところから静電気のような痛みを覚え、彼女から離れた。
そして、自らの口を覆って愕然とする杏を見つめる。
彼女の瞳が金色になったのは一瞬だけで、今はもう淡紅色に戻っていた。