闇夜に笑まひの風花を
彼は呻き、手足を暴れさせ、そして彼女を突き飛ばした。

はっ、はっ、はっ……と荒い呼吸を繰り返しながら、遥は枕の下から護身用の小刀を取り出し構える。

「何者だ!この私を第二王子と知っての狼藉かっ!!」

叫ぶ遥が見たものは……金色の目をした杏。

彼女は凶悪に口端を上げていた。

「ほう、お前は王子だったのか」

彼女の口から発せられるのは、いつもの彼女よりも低い声音。
声が幾重にも重なって聞こえる。

__直感した。

これは杏ではないと。

「お前は誰だっ。
杏をどこにやった!!」

遥の激昂に、彼女は声を立てて嗤った。

「ふふ……。私はずっと此奴の中にいた。
封印を解いてくれた礼に来たのさ」

暗い寝室の中、杏の金の瞳だけが煌めく。
怪しい色。

「封印だと?」

遥は思いきり眉根を寄せた。

ベッドの傍で二人は対峙する。

「唄を作っただろう?」

杏は__否、杏の身体を乗っ取った何者かは、にやりと笑った。

「暴走寸前のエネルギーを、此奴は自身の身体に溜め込んだ。私だけでも精一杯だったのに、更に受け入れたから限界を超え、封印が解けたのだ」

杏の痣から血が滲んだ夜のこと。
その原因を教えられて、遥は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。
心当たりがある分、苦々しい。

< 127 / 247 >

この作品をシェア

pagetop