闇夜に笑まひの風花を
*****

__……分かってしまったの。

殿下がどうして私を憎み、そして好いていたのか……。

アミルダなんて関係ない。

否、この血統による体質が原因だったんだけれど……、

でも、私の所為であることは確か。

許してなんて、言わない。

__言えない。

でも、それなら……。

ねえ、ハル?

あなたは、私をどう思っているの……?


「……は、る……」

目を覚ますと、右手に鋭い痛みが奔った。
小さく呻いて見ると、包帯が巻いてある。

杏は無言で起き上がり、鏡台の引き出しを探って、アレキサンドライトのペンダントを取り出した。
それを身につけ、服の下に隠す。
鏡に映る彼女は無表情だった。

これは、お守りだ。

杏の痣の上で、宝石が踊る。
同じように赤色に色を変えながら。

杏は四苦八苦しながら着替えを済ませ、コートを着込んで離宮に向かった。

昨日は裕の言葉に甘えて一日休んだ。
右手が多少痛くても、仕事はできる。

杏は途中でコートをローブに着替え、仕事場に向かう。
杏が地下に下りると、ちょうど晃良と鉢合わせた。

「あ、杏。もう大丈夫なんですか?昨日は体調不良だと聞きましたが。
……まだ顔色が優れませんね」

本を両手に抱えて、晃良は心配そうに彼女を気遣った。
けれど、杏は苦笑して深入りを拒絶した。

「大丈夫ですよ。
それより、チーフはもう起きていらっしゃるかしら」

「ええ、おそらく」

いつも愛想の良い杏らしからぬ行動に首を傾げながらも、晃良は素直に答えた。
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