闇夜に笑まひの風花を
四方八方から、伸ばされる腕。
いやらしい笑いと欲に塗れた瞳。
何もかもが気持ち悪い。
彼女の見栄えする顔が不幸を呼んだ。
けれど、そんなことも分からない子供は涙ながらに叫び、必死に捕らわれまいと暴れた。
弾かれた腕たちは意図的に彼女の身体を触っていく。
『いやっ!いやっ!やだぁっ!やめてよっ!やめてったら!!』
暴れて、近づく腕を叩いて。
叫んで、来ない助けを求めて。
泣いて、泣いて。
それすらも彼らの嗜虐心を擽っていることにも気づけないほど、彼女は幼かった。
咄嗟に呪術の防護など思いつかない。
ただ、男たちに捕まらないように必死だった。
男たちにとっては、その程度は遊びだった。
幼女の抵抗など、痛くも痒くもない。
そして、やがて終わりは告げられる。
『ヒッ!!』
彼女の声が裏返った。
男たちの一人に、暴れていた腕を掴まれたのだ。
そのとき、彼女が見たのは、盛りのついた獣のような……。
__その瞬間。
彼女の理性が切れた。
『エザラっ!!』
ありったけの声で、叫ぶ。
叫びすぎで、声は掠れていた。
けれど、それは十分に力のある言葉だった。
脳裏を掠めたのは、氷柱だった。
部屋の中だというのに猛吹雪が彼らに襲い掛かり、それがおかしいことに気づかぬ間に男たちは氷漬けになった。
瞬く間も必要なかった。
__それから、力の気配に慌てて駆けつけた呪術師は、氷漬けの兇手に囲まれて凍傷を起こし、目の焦点が合わず荒い呼吸を繰り返す姫を発見したらしい。
……六歳の夏の終わり頃。
ナノが城に来れなくなった。
理由は、誰も教えてくれなかった。
その、矢先の出来事だった。