闇夜に笑まひの風花を
『那乃、那乃っ!』

学校で、私は鉄色の髪の少女に話し掛ける。

『もう授業は終わったよ?
ほら起きて。ご飯食べよっ』

露わになった彼女の瞳は、葡萄色だった。
私は、その少女を那乃と呼ぶ。

一宮那乃。

ハルカさまの婚約者だった人。

__え……?

私は、この少女を……知っている?

違う。
違う。

ナノは。
ハルカさまの婚約者だったナノは。
黒髪と常盤色の瞳。

でも、学校に通う少女は、鉄色の髪と葡萄色の瞳。

……同姓同名?
まさか。
一宮は、大臣家一つだけ。

それならば、彼女は__?


__パチリと目を開ける。
夢から覚めた杏に、夕陽が差した。
そこには、相変わらず遥が傍に居た。

「……ハル」

意識ははっきりとしていた。

きっと、遥や裕はずっと前から気づいてる。
そして、受け入れてるんだ。

受け入れることができている。

けれど。
それでも私は、流すことはできない。

「ハル、那乃と殿下を呼んで。
私は那乃から聞きたいの」

真実を。
彼女の、気持ちを。

幼い頃、共に過ごした仲間だから。
私の……親友だから。

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