闇夜に笑まひの風花を
*****

四人が集まったのは離宮だった。
呪術師たちの利用しない、地上の部屋。

その、さして広くもない一室。
使われなくなった離宮は暖房器具は使えず、杏が呪術で暖める。

いい感じに暖まったところで、渋る那乃を連れた遥が現れ、全員が集まった。

「なんなの?こんなところに呼び出して」

那乃は不機嫌に開口一番そう言った。
眉間に皺が寄っている。

それを知っていながらも、杏はゆっくりと話す。
彼女は大きくくり抜かれた窓に向かい合い、雪景色を眺める。
杏色の瞳は、どこか遠くを見ていた。

「ねえ、『那乃』。覚えてない?この景色。
雪がいっぱい積もったら、いつも雪遊びをしたよね」

部屋にいるのは……四人だけ。

「『那乃』は少ししか外に居られなかったけれど、一緒に遊んだよね」

哀しそうに懐かしむ口調の杏に、那乃は彼女を睨んだ。
その目が不審に細まる。

「何を言ってるの」

「この部屋から見てるだけじゃつまらなくない?って聞いたら、あなたは笑って、楽しいよ、って言ってくれた。
私と同じ寒さを感じて、同じ景色を見てるからって。
あなたは、そういう人だった。人を気遣える優しい人だった。
__ねえ、覚えてる?」

杏は泣きそうな顔で振り返った。
夕陽の光が雪原に反射して、彼女を照らしている。
夕日に溶けてしまいそうだと、それを見ていた那乃は思った。

那乃は、答えない。
ただ、じっと杏を見つめていた。

橙の混ざる葡萄色は、何の感情も見当たらなかった。

杏は顔を歪める。

「覚えてるわけないよね……。
私たちと一緒に遊んだナノは、あなたじゃないものね……」

それは諦めだった。
そして、確認だった。

その台詞に確信が含まれていることに気づいて、那乃は顔を強張らせた。

「なに、言ってるの……?
私は……、私は一宮那乃よ!大臣家の一人娘よ!!」

あまりに切ない叫び。
那乃の腰は引けて、胸元で握り込んだ指は震えていた。

「もういいよ、『那乃』。もう誤魔化さなくていいよ。
私、思い出したの。ナノは、私が六歳の冬に死んじゃったんだって……」

__ナノが城に来れなくなったのは、六歳の夏。
そして、彼女が亡くなったのは……その年の冬の始め。
享年七歳だった。
< 139 / 247 >

この作品をシェア

pagetop