闇夜に笑まひの風花を
遥はじっと裕を見つめていた。
その視線は嫌悪しているようでも、哀しそうでもあった。
その視線を受けて、裕は思い出す。
秋の舞踏会でのことだ。
『那乃』が杏を連れ出した後、久しぶりに再会した弟に尋ねたことがある。
お前は憎くないのか、と。
『兄上、私は__』
言いかけて、遥は一人称を言い直した。
公式の立場で言うには問題があるからだ。
『俺は、杏を憎んだりできない。赦すってのもちょっと違う』
『薄情者だな。親より女か』
言い切れる弟が羨ましくて、悔しい。
それを押し隠すために、嗤った。
そして今も、何も言えれない裕に対して、遥は妙に達観していた。
「あれは事故だよ、兄さん。誰も悪くない」
だから杏を憎むのは筋違いだ、と彼は言いたかった。
裕にも杏にも、伝わってほしいと思ったのだが。
「お前は甘い。
そう簡単に__」
「裕王子、遥王子、失礼いたします!」
裕の台詞を遮って、扉が音を立てて開かれる。
杏は咄嗟に王子二人を背後に庇った。
裕は眉間に皺を刻んで、低い声で問うた。
「何事だ」
「坂井杏がここにいると聞いて参りました」
黒づくめとサングラスの男たちが五人。
彼らは杏を取り囲む。
「何のつもりだ、お前らっ」
遥は声を荒げるが、杏は戸惑いもしなかった。
そして高らかに宣言された言葉に、杏は諦めを浮かべた。
「国王陛下のところにお連れします!」
その視線は嫌悪しているようでも、哀しそうでもあった。
その視線を受けて、裕は思い出す。
秋の舞踏会でのことだ。
『那乃』が杏を連れ出した後、久しぶりに再会した弟に尋ねたことがある。
お前は憎くないのか、と。
『兄上、私は__』
言いかけて、遥は一人称を言い直した。
公式の立場で言うには問題があるからだ。
『俺は、杏を憎んだりできない。赦すってのもちょっと違う』
『薄情者だな。親より女か』
言い切れる弟が羨ましくて、悔しい。
それを押し隠すために、嗤った。
そして今も、何も言えれない裕に対して、遥は妙に達観していた。
「あれは事故だよ、兄さん。誰も悪くない」
だから杏を憎むのは筋違いだ、と彼は言いたかった。
裕にも杏にも、伝わってほしいと思ったのだが。
「お前は甘い。
そう簡単に__」
「裕王子、遥王子、失礼いたします!」
裕の台詞を遮って、扉が音を立てて開かれる。
杏は咄嗟に王子二人を背後に庇った。
裕は眉間に皺を刻んで、低い声で問うた。
「何事だ」
「坂井杏がここにいると聞いて参りました」
黒づくめとサングラスの男たちが五人。
彼らは杏を取り囲む。
「何のつもりだ、お前らっ」
遥は声を荒げるが、杏は戸惑いもしなかった。
そして高らかに宣言された言葉に、杏は諦めを浮かべた。
「国王陛下のところにお連れします!」