闇夜に笑まひの風花を
「私の体内からも、この国内からも奴の存在を消し、この国に影響のないように始末します」

それが、彼女なりの責任の果たし方。
罪の償い方。

彼女に、唯一できること。

「それができたら、いつでも私を殺せば良い。
できなければ、私は力を消します」

「姫様っ!!」

五人の中で、ただ一人呪術師である翡苑が悲鳴を上げる。

杏は、彼に哀しくも笑ってみせた。

力があるからこそ、この十三年間 自我を保てていたというもの。
今は、杏とペンダントの力の二つでギリギリ保っていられる。

しかし、彼女の力がなくなってしまえば、ペンダントだけでは杏を守れない。
力のの均衡を失えば、杏は身体を乗っ取られてしまう。

杏の自我が消え、事実上__『彼女』は死ぬ。

だから、翡苑は咄嗟に叫んだのだ。

「そして、私の力を、翡苑に与えましょう」

今の翡苑には魔に対抗し、魔を消し去るほどの力はない。
だから、今 魔を解き放っても、止めれる者は居ない。

おまけに、魔は残った彼女の力や知能を使って、更に力をつけることができる。

けれど、彼女の力が翡苑のものになれば、彼は魔を上回る力を持つことになる。

魔に乗っ取られた杏の身体を殺す役を、翡苑が担えば良い。

彼女は静かな声で王に述べた。

「陛下の寛大な御心を以って、お許しいただけますよう……」

わずか十九の少女の願いが、自らの命ではなく、彼女の国でもない国民の命のためだとは……。

そのあまりにも哀しい請いにも、王は気づかない。

「……今すぐには無理なのか」

しばらくの沈黙の後、王は彼女を見下ろして言った。

遥はギリギリと奥歯を噛み締めた。

わずかな時間の猶予さえも、父王は奪おうとする。
そんなことが許されてたまるか。

目の前が真っ赤に染まりそうな、感情。

「残念ながら、準備が足りません」

杏はそう言って頭を下げる。

その謙(へりくだ)った調子にさえ、遥は苛立ちを覚えた。

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