闇夜に笑まひの風花を
顎に手を当てて、考え込む王。
裕がそこに口を挟む。

「父上、あの女はなかなかに使える者です。存分に国のために働かせてから殺しても、遅くはないかと」

どれも殺すことが前提になっている。
それすらも反抗しない彼女が、ひどく哀しかった。

また息子を詰るかと思われたが、王は素直にそれを受け入れた。
最初よりも気分は落ち着いたらしい。

「ふむ。
翡苑、力の譲与の準備にはどのくらいかかる?」

王の問いに、翡苑は即答する。

「早くても、おそらくこの雪が溶けて新芽が出る頃になろうと」

日数にしておよそ三ヶ月
それが、彼女の制限時間だ。

では、と王は立ち上がる。

「では、翡苑の準備が整うまでは、貴様に猶予を与えよう。
時間は好きに使えば良い。ただし、身柄は拘束する。
北の塔に連れて行け」

まるで神の慈悲とでもいうように、不遜に言い渡す王。

北の塔は、最凶悪犯の牢獄。

王の決定を聞いた那乃は青褪めた。

まさか、こんなことになるなんて……。


__悔しくて悲しくて離宮を飛び出した那乃は、杏が夜色のローブを着ていたことをいいことに、王に告げ口したのだ。
彼女が舞姫になれたのが実力だと知っていながら、嫉妬心から咎められれば良いと思った。

けれど、それを聞いた王は人が変わったような形相だった。

琥珀色の髪毛、杏色の呪術師。

それがアンジェの特定に繋がってしまうことを、彼女は知らなかった。

__そうして、彼女の知らない杏の罪が、思わぬ展開に導いてしまったのだ。


杏は男たちに囲まれ、塔に連れて行かれる。

誰も、止めることはできなかった。

杏の諦めに似た表情が、泣きそうな那乃の瞳に、刻み込まれた__。

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