闇夜に笑まひの風花を
*****

北の塔。

王直轄の敷地内とは言え、その使用用途によって敬遠される地。
人は滅多なことがなければ近寄らず、最凶悪犯の牢獄と雖も看守さえいない。

人に邪魔されず、人への影響も心配しなくても良い場所。
人に知られず、術を考案するには最適だった。

もともと、杏はこの塔で術の発明をしようと目をつけていた。
多少誤算があったが、望みは叶った。

唯一異なることといえば、立場が囚人であるということだけ。

ただ、それだけだった……。

それなのに、この胸に湧き上がるやるせなさと寂しさは何だろう?

たった独りで責任を取ると決めていたのに、どうして今更ひとりぼっちにされたような気分になるのだろう?

両親を始め、アミルダの呪術師がほとんど居ない今、私は独りなのに……。

どうして今更、心が弱くなるのだろう?

高い塔のてっぺん。
いつもより近い月。

それなのに、十三年前よりも小さな月。

それが、孤独と罪悪感を煽るからだろうか?

寂しい。

そんな台詞を口にするわけにはいかなくて、私はひたすら机に向かった。
< 153 / 247 >

この作品をシェア

pagetop