闇夜に笑まひの風花を
前も横も後ろも下も分からない闇で、襲うのは激痛。
いくら拒もうとしても、
逃げようと身を捩っても、
逃れられない激しい痛み。
喉が痛くなるくらい叫んで。
それでも、自分の声さえ聞こえなくて。
目から滴る水。
それが頬を滑り落ちる感覚すらなかった。
__私を受け入れろ。
そうすれば楽になれる。
頭の中に直接響く、気持ち悪い声。
__否、練乳より甘い……誘惑。
あなたを受け入れたら、何か良いことがあるの?
私はまともに考えることすらできなくて。
__良いぞ。
一つ、願いを叶えてやろう。
そのために、私はここに居るのだからな。
じゃあ……。
聞こえるのは、誰かが私を呼んでいる声。
悲鳴のように。
必死に。
遠くから。
得体の知れないものを受け入れようとする私を、咎めるように。
じゃあ、他の人は傷つけないで。
酷いことしないで。
影が、笑った気配がした。
__良いだろう、契約だ。
お前が私に身体を差し出す限り、私はお前以外に危害を加えない。
お前の願いが叶うかどうかは、お前次第だ。
__この契約を、結ぶか?
結ぶわ。
その代わり、破ることは許さない。
__契約成立、だな__。
そう言って、影はとても楽しそうに笑った。
嗤った。
次の瞬間、私は内蔵を体内でごちゃ混ぜに掻き回されるような激痛と不快感を感じ__叫んだ。
影は、私に痣を刻んでいく。
このとき、私は知らなかった。
初めて異物を《取り込む》という異常な痛みと不快感に泣き叫んだ声を媒体に、力の限りを放出しているなんて。
そしてそれが、お母様やお父様を始めとする、その場にいた全員を__殺してしまうなんて。
荒れ狂う力。
制御を失った力は暴走し、誰彼構わず惨殺していく。
お母様やお父様が止めようとしても止まらず、身を守ろうと張った結界さえ破って。
その小さな部屋を、真っ赤に染め上げるまで。
__わずか六歳で禁術を完成させるほどの私の力は凄まじく、急ごしらえの防御は紙同然だった……。