闇夜に笑まひの風花を

誰に謝っているのか、
もう分からなくなっていた。

涙が身体中の水分を押し出すみたいに、止まらない。
それを拭う気力さえなかった。

血に塗れたそこに、刻まれるのは陣。

同心円が四つ。
その間には特殊文字がびっしりと連ねられ、均等な四ヶ所に文字で形作った星と月。
四重円と重なり、交わり、複雑な図形描く。

嗚咽と共に吐き出すのは、唄。
この術の__呪。

身体から力が抜けていく。

この感覚を、知っている。
力の使いすぎ。
そろそろやめないと危ないよ、と身体が教えてくれようとする。

それでも、口だけは動かし続ける。

生命なんて、いらない。
こんな穢れた生命なんて。
誰にも愛されない生命なんて。

魂が傷ついてもいい。
神様に赦してもらえなくても構わない。
ハルカさまにも赦してもらえないから。

人はもう、殺してしまった。

だから、もう怖いものなんてない。

ずっと変わらない世界でも構わない。
風が吹かなくても。

大切な人はたくさん死んだ。

__もう良いの。

私はどうなっても構わないから。
どうか……。

どうか、ツユキさまだけは助けて。
ハルカさまのお母様。

私が、奪ってしまった時間。
どうか、もう一度彼女に。

ハルカさまが泣かないで良いように。

ツユキさまを、生き返らせて。

私の穢れた生命と交換で良いのなら__。


そう、願ったのに。

力が。
全然足りなくて、術は完成しないまま、弾け散った。
目の前で。

絶望が、心を真っ黒に染める。

ああ……私は……。
最期の願いさえ、叶えることはできないの……?

ふらりと倒れた身体は血を跳ね上げ、赤に塗れる。

ふるふると、どうしようもない思いに唇が震えた。
そして、喉から漏れるのは、泣き声。

つらい。
つらいよ。
身体がつらいよ。
心がつらいよ。
壊れることさえ、許されない。

どうして?
早く壊れてしまえばいいのに。
何も分からなくなってしまえば楽なのに。

おかあさま……!
おとうさま……っ!

つらいよ。
くるしいよ。

いきることって、どうしてこんなにもくるしいの……?


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