闇夜に笑まひの風花を
:憶
*****
酷い頭痛がした。
身体は怠く、心がひどく重い。
無理やり目を開けると、白い天井が眩しかった。
こめかみに涙が伝う。
ぼんやりと天井を見上げた。
頭が枕に埋まっている。
身体の上に柔らかな布団が乗っている。
軽くて暖かい。
ああ、私は今ベッドに寝ているのね。
働かない頭を動かして、ゆっくりと状況を理解していく。
痛みが思考の邪魔をする。
いつ、ベッドに入ったんだっけ?
考えて、この感覚が懐かしいものだと気づく。
最近はベッドで寝てなかった。
……あれ?
じゃあ、どこで寝ていたの?
思い出すのは、疲れた身体と消えゆく意識。
腕の下の固い感触。
冷たくて。
起きると関節が痛くて。
それは、無理な体勢で眠っているから。
ずっと同じ格好のままだから。
そこまで思い出して、杏はがばりと身を起こした。
痛む頭に顔を顰め、目を眇めて部屋を見渡す。
知らない部屋だった。
幼い頃に寝起きした部屋でもないし、十三年間暮らした自分の部屋でもない。
王と王子の三人しか居ない後宮に与えられた部屋でもなければ、離宮の自室とも違う。
一度だけ眠ってしまった裕の部屋はもっと広かった。
白い天井、白い壁。
清潔なシーツ、ベッド。
それから、匂うのは消毒薬のような。
杏が自分の掌に視線を落とすと、それは思いの外 大きかった。
視界の端に緑の宝石が映る。
思考を邪魔していた靄が晴れていく。
ペンダントに指先で触れた。
今、私は十九で、城に戻ってきているんだ……。
どうして戻っているのかも、記憶が途切れるまで何をしていたかも思い出した。
杏の表情に寂しげな色が浮かぶ。
ここはおそらく病室だ。
きっと呪術師の誰かが見つけて取り計らってくれたのだろう。
指先がペンダントを弄る。
重く沈む心を持て余して、深く息を吐き出した。
アレキサンドライトが深紅の痣の上で踊る。
酷い頭痛がした。
身体は怠く、心がひどく重い。
無理やり目を開けると、白い天井が眩しかった。
こめかみに涙が伝う。
ぼんやりと天井を見上げた。
頭が枕に埋まっている。
身体の上に柔らかな布団が乗っている。
軽くて暖かい。
ああ、私は今ベッドに寝ているのね。
働かない頭を動かして、ゆっくりと状況を理解していく。
痛みが思考の邪魔をする。
いつ、ベッドに入ったんだっけ?
考えて、この感覚が懐かしいものだと気づく。
最近はベッドで寝てなかった。
……あれ?
じゃあ、どこで寝ていたの?
思い出すのは、疲れた身体と消えゆく意識。
腕の下の固い感触。
冷たくて。
起きると関節が痛くて。
それは、無理な体勢で眠っているから。
ずっと同じ格好のままだから。
そこまで思い出して、杏はがばりと身を起こした。
痛む頭に顔を顰め、目を眇めて部屋を見渡す。
知らない部屋だった。
幼い頃に寝起きした部屋でもないし、十三年間暮らした自分の部屋でもない。
王と王子の三人しか居ない後宮に与えられた部屋でもなければ、離宮の自室とも違う。
一度だけ眠ってしまった裕の部屋はもっと広かった。
白い天井、白い壁。
清潔なシーツ、ベッド。
それから、匂うのは消毒薬のような。
杏が自分の掌に視線を落とすと、それは思いの外 大きかった。
視界の端に緑の宝石が映る。
思考を邪魔していた靄が晴れていく。
ペンダントに指先で触れた。
今、私は十九で、城に戻ってきているんだ……。
どうして戻っているのかも、記憶が途切れるまで何をしていたかも思い出した。
杏の表情に寂しげな色が浮かぶ。
ここはおそらく病室だ。
きっと呪術師の誰かが見つけて取り計らってくれたのだろう。
指先がペンダントを弄る。
重く沈む心を持て余して、深く息を吐き出した。
アレキサンドライトが深紅の痣の上で踊る。