闇夜に笑まひの風花を
「痣はどうします?秋のように隠しますか?」

少しずつイメージを固めていき、新しい頁に書き込みながら何気なく言われたことに、杏は驚いた。

いつも隠してきた痣だった。
興味や好奇心で探られることを好まなかったし、白い肌に浮かぶ痣はひどく痛々しい印象を与えるからだ。
だから、彼女には痣を見せるという選択肢はなかった。

だが、早紀は顔を上げてにっこりと微笑んだ。
そして、秋の舞踏会のときと同じことを言う。

「だって、とっても綺麗な色でしたから。私は好きですよ」

杏の指先が自然と痣を撫でる。
アミルダの罪の象徴であり、彼女の罪の証でもある。

杏はそっと瞑目した。

「アクセサリーはしていても良いの?」

ここで駄目と言われても、このペンダントを外すわけにはいかない。
杏の命綱。

「事情を殿下がお許しになるのなら」

早紀の言葉に杏は苦笑した。
必要なのが王の許しではなく、裕の許しというあたり、内政の最高権力が誰のものか分かってしまうというもの。
尤も、その方が杏にとって都合が良いのだが。

「じゃあ、ビスチェを着てみようかな……」

どんな反応が返るかは分からない。
王は激昂するかもしれない。
貴族たちにも冷たい目を向けられるかもしれない。

痣を晒すのはまだ恐怖が残る。

でも、どうせ舞姫として最後の舞台だ。
最期なのだから、全てを晒してしまうのも悪くないように思えた。

彼女の決定に早紀は微笑みを返す。
はい、と応えて、視線をまたスケッチブックに落とした。
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