闇夜に笑まひの風花を
それが三つになると多少厳しいかもしれないが。

「うん、そうね。あと、簡単に壊れないように呪具にも防護の術かけといて。
それから、対象は人間とは限らないから範囲広げてね」

「期日は」

晃良は苦虫を噛み潰したような表情で尋ねた。
彼の不安に杏は無情にも笑顔を返す。

「なるべく早い方が良い。時間が掛かりそうだったら、裕様の寝室の呪具を参考にして」

「えっ……」

「遥様の寝室の呪具だからね。心して掛かって」

まさかそんな重要なものだとは思わなかったのか、彼は豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
少々プレッシャーをかけすぎたかもしれない。
けれど、あの顔からして、リボンに施されている術式構成をしたのはおそらく晃良だろう。
力を込めて刺繍をしたのが琳。

三つの術を組み合わせれるなら、できない話ではない。

彼は戸惑ったように杏を見つめていたが、彼女の目に信頼があることに気づくと、晃良は顔を引き締めて依頼を受けた。
それに杏も頷き返す。

塔の下まで降りて、杏は笑顔を見せた。

「それじゃあ、よろしくね。
皆にありがとうって伝えてください。お世話を掛けました、と」

「はい、伝えましょう。
皆、一緒に過ごせたのは一時期だけとは言え、杏のこと大切だと思ってるし、応援してます。僕らは見れないと思うけど、頑張って」

にっこりとそれは見事に杏は微笑んでみせた。
淡紅色の瞳が柔らかく和む。
どこか哀しい面影を押し隠して。

「いってきます」

雪が、冷たい。
そんな当たり前の感覚すら忘れていた杏は、寒い冷気に気を引き締め直した。

心に吹き荒ぶ隙間風。
心を重くするそれからは目を背けて。
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