闇夜に笑まひの風花を
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湯浴みをして、呪術のことは一切頭から追い出す。
これから短い時間の中でやらなければならないことを整理し、気分を入れ替える。

舞うのだ。
誰かに何かが伝わるように。
心を込めて。
舞う。

私は、舞姫。
数多の視線を集め、感謝を伝える。
清い心で。

暑い湯を浴び、閉じた瞼を開けば、鏡に映るのはアミルダの姫ではない。
聖華学園から選ばれた、庶民出身の舞姫。
浮かべるべき表情は、誇りと喜び。

久しぶりにローブを脱ぎ捨てて、登城のときに用意されたドレスに腕を通す。
薄花桜の色が綺麗に染め出ているものだった。
髪を梳いて、勿忘草色のリボンで軽く括る。
そこに簪を刺した。

動く度にしゃらりと音を立てるそれ。
特別なときにしか聞かない音だから、自然と思考が切り替わる。

まず初めに向かったのは、歴代の舞姫たちの部屋だった。
挨拶をし、打ち合わせを済ませ、部屋の隅のバーを借りる。
基礎のレッスン内容を一通り済まし、身体を調整していく。
思いの外、以前と違和感がなくてホッと息を吐いた。

昼食は誘われるままに舞姫たちと共にし、やっと解放されたのは午後も半ばを過ぎた頃だった。
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