闇夜に笑まひの風花を
次に訪れたのは楽団の練習場所。
ちょうど腹ごなしが終わったところなのか、防音の扉を開けると音の洪水に襲われる。
代表者に話をつけようと足を踏み入れると、一瞬視線を浴びたと同時に音がなくなった。
あれ、と耳を澄ますと、そのときにはいろいろな楽器の音が混ざって耳に届き、杏は首を傾げた。
杏が踊るのは三曲と一つ。
一人で踊るものが一曲。
舞姫たちと踊るものが二曲。
音楽なしで心のままに舞うのが一つだ。
「では、私が一人で舞う曲を三度演奏してください。
それで結構です」
彼らの練習ではなく、曲を流せと言っているのだ。
あまり何度も繰り返させては彼らの練習時間を削らせてしまう。
杏にとっては、そう気遣っての台詞だったが__。
「新年の舞踏会まで日にちがあまりありませんが、次回はいつだと都合が宜しいですか?」
当たり前のようにそんなことを聞かれて、彼女は戸惑った。
杏の予定では、次回は前日リハーサルのみのつもりだったが。
「え?
……いえ、とりあえずは今日だけで十分ですよ」
杏の言葉に、次は代表者が戸惑いを見せた。
たった三回で良いのですか?と探りを入れてくる。
三度でも多いのではと危惧していたが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
「最初はイメージを固めるために、ただ聞かせてください。二度目は適当に身体を動かします。最後は修正を入れつつ身体に覚え込ませます。
三度聞けば曲は覚えれます。練習は脳内再生で十分ですよ」
他人にできるだけ迷惑をかけないことが身に染みている杏にとってそれは当然の処置だったが、彼らは驚いていた。
歴代の舞姫は楽団が飽きるほど何度も演奏させるという。
彼らのあまりの驚きように腰が引けて、杏はつい弱気になった。
「でも、曲によってはもう一度お願いするかもしれません。それから、変更点があれば教えてください」
歴代舞姫の中でも一段と若い彼女。
もしかしたら調子に乗っているのか、意地を張っているとでも思われたのだろうか。
遠慮しなくていいんですよ、と続けられて、杏は曖昧に返した。
そして、防音の部屋に曲が響いた。
ちょうど腹ごなしが終わったところなのか、防音の扉を開けると音の洪水に襲われる。
代表者に話をつけようと足を踏み入れると、一瞬視線を浴びたと同時に音がなくなった。
あれ、と耳を澄ますと、そのときにはいろいろな楽器の音が混ざって耳に届き、杏は首を傾げた。
杏が踊るのは三曲と一つ。
一人で踊るものが一曲。
舞姫たちと踊るものが二曲。
音楽なしで心のままに舞うのが一つだ。
「では、私が一人で舞う曲を三度演奏してください。
それで結構です」
彼らの練習ではなく、曲を流せと言っているのだ。
あまり何度も繰り返させては彼らの練習時間を削らせてしまう。
杏にとっては、そう気遣っての台詞だったが__。
「新年の舞踏会まで日にちがあまりありませんが、次回はいつだと都合が宜しいですか?」
当たり前のようにそんなことを聞かれて、彼女は戸惑った。
杏の予定では、次回は前日リハーサルのみのつもりだったが。
「え?
……いえ、とりあえずは今日だけで十分ですよ」
杏の言葉に、次は代表者が戸惑いを見せた。
たった三回で良いのですか?と探りを入れてくる。
三度でも多いのではと危惧していたが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
「最初はイメージを固めるために、ただ聞かせてください。二度目は適当に身体を動かします。最後は修正を入れつつ身体に覚え込ませます。
三度聞けば曲は覚えれます。練習は脳内再生で十分ですよ」
他人にできるだけ迷惑をかけないことが身に染みている杏にとってそれは当然の処置だったが、彼らは驚いていた。
歴代の舞姫は楽団が飽きるほど何度も演奏させるという。
彼らのあまりの驚きように腰が引けて、杏はつい弱気になった。
「でも、曲によってはもう一度お願いするかもしれません。それから、変更点があれば教えてください」
歴代舞姫の中でも一段と若い彼女。
もしかしたら調子に乗っているのか、意地を張っているとでも思われたのだろうか。
遠慮しなくていいんですよ、と続けられて、杏は曖昧に返した。
そして、防音の部屋に曲が響いた。