闇夜に笑まひの風花を
はるか?
今、どんな顔してるの?

「自分で確かめろよ。
いい加減、目を開けてさ」

音にならない声を、けれども彼は答えてくれる。

開かないのよ、目。
どうやったら開くの?

温もりに引かれるように歩を進める。

手の甲を撫でられるような感覚がくすぐったい。
優しく前髪を払う指。

それに甘えて口元に微笑を刻むと、

ぺちっ。

軽く額を叩かれた。


「__!」

驚いて目を開けると、目の前には怒ったような表情の遥。
それを見とめてから、杏は自分の目が開いたことを知る。

急な光の明るさに、闇に慣れた瞳を細める。
どうしたの、と尋ねようと彼女は口をひらくが、それよりも遥の方が早かった。

「バカっ!」

開口一番に、彼はそう怒鳴った。
杏はえ、と戸惑いを表す。
遥を見上げると、眉間に皺が刻まれ眉尻は下がり、怒っているより泣きそうだった。

「何してんだよ!食事もろくに取らずにっ」

死ぬ気か!? とはさすがに言えなかった。
きっとそれが本当だから。
だけど、彼女が既に覚悟を決めているらしいことが遥は怖くて、哀しくて、震えそうになる拳をぎゅっと握り込んだ。

「どうしてお前はそうなんだよ!もっと生きたいと思えよ!なんで死ぬことばかり考えてんだよ!!
助かろうとは思わないのか!? 兄さんに取り入ってでも、生きる道を見つけようとは思わないのか!?
もっと生き汚くなれよ!もっと生きたいと思ってくれよ!! 運命だか定めだか知らねぇけど、逆らってやろうくらいの気迫を見せろよ!」

皆が皆、彼女が死ぬことに抗おうとしない。
それが当然であるように振舞う。
それは勿論、当事者のはずの目の前の彼女も、だ。

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