闇夜に笑まひの風花を
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年の暮れる最後の日__朝賀の前日。
陽が暮れてから、彼女は城を抜け出した。
向かった先は、悠国とアミルダ国の国境近く。

とある岩陰に隠れたように、小さな湖がある。

寒空の下、杏は躊躇なく服を脱ぎ捨て、白い足先から湖に浸かった。
あまりの冷たさに肌を粟立たせて、ふるりと震えた。

はあ、と身体の緊張を解くように息を吐く。
白い吐息が空気に溶ける。

手の平に水を掬うように持ち上げる。
水は手の平から零れて水面に波紋が広がり、腕を伝って滴る。

肌の白さが、月の光を受けてより際立つ。

空を見上げれば、淡い月が煌めいた。
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