闇夜に笑まひの風花を
*****

楽団が演奏を始める。
若緑で纏めた衣装を見に纏う舞姫たちが舞いはじめる。
その中心で、白と青のドレスを纏い、生成りの布を手首や足首に巻く杏が舞う。
高く結った琥珀の髪に舞姫の簪と勿忘草のリボンが躍る。
白い肌に映えるのは、血のように赤い薔薇の痣。
その上で煌めくアレキサンドライトのペンダント。
淡紅色の瞳は柔らかな微笑みを湛えている。

大広間の真ん中で舞う彼女らに場所を開けるように壁側に避けた観客たちから割れたような拍手が起こる。
舞姫たちの舞が終わったと同時に王と二人の王子がステージに登場した。
そして王の短い挨拶を終え、そのまま杏の紹介を裕が話す。

その間に広間の中心に立ったのは杏ひとりだ。

曲が始まると同時に、杏の腕が空を切る。
一歩足を踏み出して、空を仰いだ。

流れる曲は、彼女が雪下の蕾と名付けたもの。
その中盤にある、静かな部分。
朗々と流れる音に代わって、流れるのは唄。

低く柔らかい音色は、遥の声。

指揮者の隣で美声を披露する彼と視線を交わせ、切なく微笑む。
杏は崩れるように床に伏せた。

事情を知る裕や那乃、そして端に控える芽依は瞬間息を飲む。

一瞬音が消える。
響きが吸い込まれてそれさえなくなる瞬間、また楽器が鳴り始める。
それに紛れるように響く声。

様子を陰で見守る呪術師は、それを聞いて顔を顰めた。
彼らは王の命により、万が一 杏が術を使った場合に備えている。
晃良が呆然と呟き、離れた場所では芽依が顔を蒼白にする。

「どうして王子がこの言葉を……?」

その唄はところどころにアミルダの言葉を用いている。
まるで秘密のメッセージを隠すように……。
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