闇夜に笑まひの風花を
「探していたの。
草を掻き分けて。
あなたがどこにも居ないから。
あなたが居そうなところも
探してみたわ。
だけれど、あなたはいつだって
私の隣に居たから。
分からないの。
見つからないの。
ねえ、あなたはどこ?
急に私の前から消えて
どこに行ったの?
私はあなたを見つけられない。
あなたが私を見つけてくれたから。
ずっと傍に居たのに。
ずっと傍に居たから。
あなたを探して、見失った私。
見つけてくれるのは、
いつだってあなた」

似合わない言葉遣いから考えて、彼は意味を知らずに唄っているらしい。
ということは、耳で覚えた唄。
覚えるほどに繰り返されたそれ。

それは、祈りの唄。

「空を見上げたの。
心が寂しくて。
私を照らす光が痛いから。
どうせ照らすならあなたを
見つけてくれれば良いのに。
でもね、光が教えてくれたの。
そこに輝く星々が。
そこにあなたが居ることを。
私の傍に居ることを。
夜空に輝く金の光。
宝石箱をひっくり返したような空。
そこで輝くのはあなた。
私の傍で引き立てるように。
いつだって支えてくれる温かい輝き。
ずっと傍に居てくれた。
私が見失わないように。
だから、私は見つけたわ。
あなたが私に教えたから。
ここにいるよ、と囁いて」

杏は消える音を包むように、そっと胸の前で大切なものを柔らかく握るように手で囲う。

わあっと弾ける拍手と歓声。
それが終わらぬ前に、鈴の音が聞こえた気がした。
それは不思議と歓声を抜けて響き、人々は拍手する手を止める。

ぱぁん、と音が弾けた。
杏が頭の上で手を叩く。

王は椅子から腰を浮かせたが、それに他意がないことが分かっている呪術師たちは静かなものだ。
むしろ、彼女の見事な舞に見惚れた。
特に翡苑と琳はティアを見ているようだった。

それは、感謝を伝える舞。

ここで舞えること。
いろんな人と出会えたこと。
風が吹くこと。
陽が出て土を育てること。
笑えること。
生きていること。

すべての現象に、感謝を込めて。


それを眺めながら裕は微笑を浮かべ、隣に座る王にだけ聞こえるように囁いた。

「この舞は本物ですよ、父上」

王は壇上で苦く顔を歪めた。


彼女は最後に元の場所でくるりと一回転をする。
そして、頭上に上げた手をゆっくりと降ろし、立てた人差し指を唇に当てた。

しゃらあん、と音を立てるのは、頭上の簪。

その音が空に溶けるのを静寂が待ち、それを破るのは裕の拍手。
やがて、我に返ったような拍手と歓声が広間を埋め尽くした。
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