闇夜に笑まひの風花を
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「どういうおつもりですか」
杏が自室から出て行った直後、背後のカーテンから声が聞こえる。
銀髪のフードを被った男だ。
「あなたの未来の側近にもされないことを、何故あの娘に?」
彼女の様子を隠れて見てみるか、と誘ったのは他ならない王子だった。
「翡苑、あの女は舞踏会に来るらしい」
「ええ、聞いておりました」
苛立ちに歪められる男の眉が見えるわけでもあるまいに、王子はひどく楽しそうに笑った。
「良い機会だとは思わないか。
本当にあれに舞姫の素質があるなら、予定より早く召し上げられる」
その声音に喜びの色を見出して、男はさらに眉間の皺を増やした。
「王子はまさか、あの娘がお気に召したのですか?」
「はは、馬鹿を言うな。
お前は言っていただろう?あの女には封印がなされていると」
封印。
……忘れていた。
この王子は、どこまでもあの血を憎んでいる。
「今日見たら、痣の赤が深くなっていた。
封印が解けたのかもしれないな……?」
にやついた笑い。
気分の悪くなる声。
__そのくせ、あの女を殺すわけにはいかないのだから、滑稽だ。
「なあ、翡苑。
あれの親はどんなだった?」