闇夜に笑まひの風花を

学校の始業には、そろそろ出ないと間に合わない時間帯。
来客にしては朝が早すぎる。
不思議に思いながらも、杏は返事をしてドアを開けた。
そして、ぱちくりと目を瞬く。

来客は一人ではなかった。
総勢三人。
これくらいはまだ普段通りだが、その男たちの服装が問題だった。
三人ともが揃って真っ黒なスーツにサングラス。
澄んだ青空の下で、彼らは明らかに異様だった。
杏は思わず一歩後退った。
何故だか、言い知れない不安が込み上げてくる。
真ん中の男が一歩杏に近寄って、手を差し出した。

「坂井 杏さんですね?
国王陛下のご命令で参りました。ご同行願えますか」

「……………」

男の言葉に杏は思いっきり固まった。
驚きが大きすぎて目を見開くこともできず、瞬きを繰り返しながら差し出された手と男を見やる。
長い沈黙が降りた。
一向に反応を示さない彼女に代わって、庭の枝に止まった小鳥がチチチと鳴く。

なに、これはどういうこと?

頭が回らない。
脳が事態の理解を拒んでいるようだ。

だって、国王陛下って__

「失礼」

杏の思考を遮って届いた男の声にハッとする。
けれど、そのときには男に手首を握られていた。

「やだっ」

怖い怖い怖い。

容赦のない男たちが。
国王陛下なんて単語が。

握られている手首から怖気が奔る。
逃げたいのに、逃げるための力が必要なのに、恐怖に強張った身体からは力が湧かない。
拒否の声も張り付いた喉からは音にもならない。

こわい……っ!!
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