闇夜に笑まひの風花を
「実は、私は男性恐怖症の気があるのです。正直、今までパートナーを組んだ一人としか踊れません。ですが、今は彼と踊れるような状態ではないのです。
中途半端な状態で王族の方々の御前に参上するわけにはいきませんので、辞退させていただきたく存じます」

そう言って軽く腰を曲げる杏の瞼を見て、教師は納得した。
幾らかは化粧で誤魔化してあるが、腫れているのは明白だ。

__なるほど、男女関係のもつれね。

伊達に女を五十もやっていない。
つまりはそういうことなのだろう。

「勝手な申し分だと重々承知しておりますが、どうか……」

重ねて許しを請う彼女に聞こえない程度の溜息を吐くと、ぱちりと扇を閉じた。

「……分かりました。
あなたはしばらく頭を冷やしなさい」

……けれど、そんなことで優秀な人材を失うわけにはいかないのも、事実だ。

その言葉に、杏は顔を上げる。

「あなたは分かっているのですか?あなたは今この学校で最も舞姫に近い存在なのですよ?」

百年に一度と言っても良いくらいの人材だ。

けれど、そう言うと決まって杏は苦笑する。

「買い被りすぎです」

「いいえ。あなたが選ばれないのならば、この学校からは誰も選ばれないでしょう。
この舞踏会を一つ棒に振ることが今後のことにどれだけ影響するか……。
とにかく、時間はまだひと月と少しあるわ。考え直しなさい」

一連の会話を聞いて、何としてでも考えを改めさせなくては、と教師たちは決意するのだった。

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