闇夜に笑まひの風花を
唐突に、杏はハッと顔を跳ね上げた。
彼女は天井を見上げ、空を睨む。

……部屋に満ちた高エネルギーの圧。

曲は続く。
音が響く。

その度に圧が高まるのを感じた。

肌が粟立つ。
声が、音が、気持ち悪い。
音色は変わらず綺麗なのに、息ができなくなる。

__彼の奏でる曲は、唄ではない。

呪、だ。

「__やめてっ!!」

杏は叫んだ。

その瞬間に音が止まり、高まっていた圧が弾け散る。

「杏?」

遥は演奏をやめ、顔色を青白くした彼女を見つける。
楽器を置いて彼女に駆け寄った。

崩れる身体を慌てて支えると、震える手が彼の服を掴む。

「ごめん、杏。気に入らなかっ__」

「違うのっ」

震える身体で、震える喉で、それでも必死に言葉を紡ぐ。

「だけど、それは奏でちゃダメ」

困惑する彼に、杏は更に言い募る。

「その唄、怖いよ……っ」

__……それは、呪だ。

禁術の音。

それも、よりによって……死者の蘇生。

一節程度なら問題はなかっただろう。
あの朝の杏のように、一節だけなら。

けれど、遥は禁術の呪のメロディーを元に、曲を作っている。

……間違った音を奏でることは、呪にとって不協和音を奏でていること__大惨事を起こすことになる。

唯一幸いだと言えるのは、杏が途中で止めたために曲が完成しなかったことだろう。
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