闇夜に笑まひの風花を
「どうして謝るんだ?」
きょとんとする遥に、杏は寂しい微笑を浮かべる。
「彼女のいる人にこんなことさせちゃったから」
昨日は痛みで頭が働かなかったが、落ち着いて考えてみると頭を抱えたくなる。
添い寝など、浮気の部類に入っても仕方ない。
長い間甘えていた習慣は、簡単には直りそうもない。
それは寂しいことだが、彼の幸せを奪うほど杏は子供ではない。
遥は苦笑して忘れよう、と言うと思っていたが、彼は相変わらず状況が分かっていないようにきょとんとしたままだった。
「は?彼女?」
とぼける彼に、杏はあのとき気づかれていなかったことを思い出した。
思わず苦笑する。
「いいよ、もう隠さなくて。私、見たから。
ごめんね、__」
「ちょっと待て!」
覗き見したことを謝ろうとすると、遥はがばりと身を起こした。
「何の話?俺の彼女?
そんなん居ないけど」
彼に嘘を吐いている様子はなく、純粋に困惑しているようだった。
それを見て、杏も上半身をベッドの上に起こし、首を傾げる。
「え?だって私見たよ?」
「いつ、どこで」
「私の帰りが遅かった日。場所は、えっと……」
「はあ?あの日?
は、__ああ……あれか……」
最初はわけが分からないという様子だったが、やがて何かを思い出したようにハッとし、それから口元を片手で隠す。
くぐもった声は思いの外低く、彼の心内を覗かせる。
「あれを、見たの?」
視線を背ける彼を見ていられなくなって、杏は彼に背を向ける。
足をベッドの端から垂らして、腰掛けるような格好になる。
するりと外れた指が寂しい。
小さな声で肯定した。
「……うん」
「杏、あれはな__」
言い訳しようとする彼を遮って、言い募った。
無理やり、声だけでも明るくさせる。