闇夜に笑まひの風花を
来客の対応を終え、再び彼の部屋に上がってきた遥は大きなダンボールを抱えていた。
両手に抱えるその大きさに、杏は手伝おうとしたが、彼に断られる。

「大丈夫、これ見た目より軽いんだよ」

確かに、カーペットの上に置かれた音は、軽いものだった。
杏はきょとんとそれを眺める。

「……なにそれ」

「多分衣装だろ。杏宛だ」

衣装という単語に、そういえば王子に作ってもらっていたことを思い出す。
言外に開けてみろと言ってくれている視線に促されるまま、杏は包装を解いた。

「__うわあぁ……」

開けてみると、中を埋めつくしているのは淡紅色だった。
ふわふわしたシフォン生地。

それは、正しく杏の想像通りの衣装だった。

彼女はそれを箱から出し、胸に当ててみる。

「すご~い。かわいい……」

杏は惚けたように感嘆の声を上げる。
その様子を見つめて、遥は破顔した。

「うん、似合うな。
杏の瞳と同じ色だ」

彼の瞳が優しく細められる。
久しぶりの和やかな笑顔を向けられて、杏の胸がどきりと音を立てた。
頬が熱い。

「杏。もう、出ないなんて言わないよな」

それは、確認の口調だった。
責めるでもない、柔らかい声音。

杏は目を潤ませ、首肯した。

素敵な衣装。
甘い色。
だって、こんなにも胸が高鳴っている。

今までの努力が報われるかもしれない。
夢が叶うかもしれない。
その期待に、こんなにも胸が高鳴る。

遥の隣で、一緒に踊れる。

これより嬉しいことなんて、きっとない。
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