闇夜に笑まひの風花を
少女たちが大広間に入場すると、人々はざわりとざわついた。
今年の舞姫候補__各学校の花姫たちの入場だ。

見目麗しい集団。
その中でも、一際目を引く少女。
人々は彼女に見惚れた。

凛とした立ち姿。
前を見据えた瞳。
桜のようなドレス。
それに引けをとらない美貌。

完璧だった。

数多の視線を浴びても、臆すことがない。
それどころか、彼女自身が気高く輝いているようだった。
他の花姫たちが雰囲気に呑まれ、おどおどした態度を取っているのに対し、彼女は微笑を崩さない。
隣の男と腕を組んで、大広間の中央……整えられた舞台に、足を踏み入れる。

指を絡め、腰を引き寄せたところで、遥は杏の身体が強張っていることに気づいた。

「大丈夫、緊張しないで。
パートナーは俺だから」

大広間に集う客たちにはバレないよう、耳元で小さく呟く。
彼らの目には、杏だけは別格のように映っているはずだ。

彼女が今 微笑を貼り付けていられるのは、今までこなした本番で身につけた舞台度胸のおかげ。
ただそれだけの話で、今までとは格の違う本番と雰囲気に、杏でも内心緊張し、不安を抱いた。
それでも表情を保つのは、彼女の舞を踊る者としての誇りだ。

他人に元気や励ましを与える舞を踊るためには、舞う者が不安がるなど言語道断。

舞は、見世物だ。
彼らは舞台に上がれば、舞を舞うという自分を演じる。
杏はそれを知っているだけだ。

杏の身体が強張りを解き、口元が作りものでない笑みを刻んだ。

十段ほど高くなったステージに、王族の皆様がたが並ぶ。

楽団が、演奏を始めた。

__その瞬間、今年の舞姫が決定した。

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