闇夜に笑まひの風花を
まったく、なんなのよ……。
城の長い廊下で、杏は疲れた溜息を吐いた。
行くことを了承したらさっさと車に追い立てられ、城に着いたらすぐにお支度を、なんて言われてパーティードレスに着替えさせられた。
城の外見には感嘆したが、中はなんだか陰気な雰囲気だった。
昼にしては、思いの外暗い。
その中、長い廊下を道を覚えれないほど幾度も曲がれば、精神的に疲れるというものだ。
車の中で陛下に召し出された理由を尋ねたが、返答は陛下にお聞きくださいというものだった。
苛立ちと不安に襲われ、夕方には帰れるのかと訊くと、おそらくという曖昧な答えが返ってきた。
無事に帰れなかったらどうしよう……。
不確かな答えは、不安を煽った。
うっかり気を抜いたら泣いてしまいそうである。
杏はそんな自分を、これから陛下の御前に出るのだからと励まし支える。
震える指を、握り込む。
「こちらです」
案内役の声に、杏は顔を上げる。
目の前に大きな扉があった。
そこには緻密に彫刻が施されている。
混んだ意匠のものだ。
その前に二人の兵士が警護している。
案内役が扉に向かって声を掛ける。
「王子、ご命令の娘を連れてまいりました」
……王子?
疑問を尋ねる前に、中から声が聞こえた。
「入れ」
落ち着いた、低い声だった。
誰かの上で治める者の声だ。
その声音に杏は身体を緊張させる。
二人の兵士が扉を開ける。
廊下とは違い、中から溢れる光に杏は目を瞑った。
早く入れと促され、杏はふらふらと足を踏み入れた。
城の長い廊下で、杏は疲れた溜息を吐いた。
行くことを了承したらさっさと車に追い立てられ、城に着いたらすぐにお支度を、なんて言われてパーティードレスに着替えさせられた。
城の外見には感嘆したが、中はなんだか陰気な雰囲気だった。
昼にしては、思いの外暗い。
その中、長い廊下を道を覚えれないほど幾度も曲がれば、精神的に疲れるというものだ。
車の中で陛下に召し出された理由を尋ねたが、返答は陛下にお聞きくださいというものだった。
苛立ちと不安に襲われ、夕方には帰れるのかと訊くと、おそらくという曖昧な答えが返ってきた。
無事に帰れなかったらどうしよう……。
不確かな答えは、不安を煽った。
うっかり気を抜いたら泣いてしまいそうである。
杏はそんな自分を、これから陛下の御前に出るのだからと励まし支える。
震える指を、握り込む。
「こちらです」
案内役の声に、杏は顔を上げる。
目の前に大きな扉があった。
そこには緻密に彫刻が施されている。
混んだ意匠のものだ。
その前に二人の兵士が警護している。
案内役が扉に向かって声を掛ける。
「王子、ご命令の娘を連れてまいりました」
……王子?
疑問を尋ねる前に、中から声が聞こえた。
「入れ」
落ち着いた、低い声だった。
誰かの上で治める者の声だ。
その声音に杏は身体を緊張させる。
二人の兵士が扉を開ける。
廊下とは違い、中から溢れる光に杏は目を瞑った。
早く入れと促され、杏はふらふらと足を踏み入れた。