闇夜に笑まひの風花を
裕は彼女の頤から手を離す。
杏は少しフラついたが、しっかりと自分の足で立った。
「必ず私が満足できる舞を見せると、お前は言ったな」
「はい」
はっきりと答える杏。
彼女に、先までの一瞬の空虚感は消えていた。
裕は満足げに微笑する。
そんな彼を側近が見たら、きっと腰を抜かしたことだろう。
それほどに裕が満足できるものは貴重であり、ひどく難しいことだ。
「その言葉を違えることなく、お前の舞は見事だった。一宮の娘が邪魔をしようとしても、審査結果が変わらぬほどにはな」
裕は彼女に指を伸ばし、杏の零れた髪に絡ませた。
「誰が見ても結果は決まり切っている。それを覆すことは不可能。むしろ、そのような発言をすれば、大臣家たる一宮が教養なしと誹りを受けるだろう。
それほどの舞を、お前は踊ったのだ」
そして、その一房に唇を寄せ、口づけた。
笑みの形のまま、杏を覗いた瞳は月の光を受け、赤銅色に光っていた。
「久々に心踊るものを見せてもらった。礼に褒美を与えよう。
お前の望みは何だ?」
するりと、裕の指から彼女の髪がすり抜ける。
杏はその場から一歩後方に足を引き、毅然と王子を見上げた。
「私の望みは舞姫になること。しかし、今年叶わなければ、また来年に向けて努力するのみでございます。たとえ無理やりに何かを捻じ曲げて叶っても、嬉しくなどありません。
褒美など、私の手に余ります。いいえ、私にはこのドレスを作ってくださっただけで十分でございます」
そうして、桜のようなドレスの裾を持ち上げて一礼する。
それは肌触りがとても良く、すぐに高級生地だと分かる代物。
めかし込み、優雅に礼をする彼女は、そこいらの貴族顔負けの気品を纏っている。
杏は少しフラついたが、しっかりと自分の足で立った。
「必ず私が満足できる舞を見せると、お前は言ったな」
「はい」
はっきりと答える杏。
彼女に、先までの一瞬の空虚感は消えていた。
裕は満足げに微笑する。
そんな彼を側近が見たら、きっと腰を抜かしたことだろう。
それほどに裕が満足できるものは貴重であり、ひどく難しいことだ。
「その言葉を違えることなく、お前の舞は見事だった。一宮の娘が邪魔をしようとしても、審査結果が変わらぬほどにはな」
裕は彼女に指を伸ばし、杏の零れた髪に絡ませた。
「誰が見ても結果は決まり切っている。それを覆すことは不可能。むしろ、そのような発言をすれば、大臣家たる一宮が教養なしと誹りを受けるだろう。
それほどの舞を、お前は踊ったのだ」
そして、その一房に唇を寄せ、口づけた。
笑みの形のまま、杏を覗いた瞳は月の光を受け、赤銅色に光っていた。
「久々に心踊るものを見せてもらった。礼に褒美を与えよう。
お前の望みは何だ?」
するりと、裕の指から彼女の髪がすり抜ける。
杏はその場から一歩後方に足を引き、毅然と王子を見上げた。
「私の望みは舞姫になること。しかし、今年叶わなければ、また来年に向けて努力するのみでございます。たとえ無理やりに何かを捻じ曲げて叶っても、嬉しくなどありません。
褒美など、私の手に余ります。いいえ、私にはこのドレスを作ってくださっただけで十分でございます」
そうして、桜のようなドレスの裾を持ち上げて一礼する。
それは肌触りがとても良く、すぐに高級生地だと分かる代物。
めかし込み、優雅に礼をする彼女は、そこいらの貴族顔負けの気品を纏っている。