闇夜に笑まひの風花を
彼女を一瞥し、裕は興味が失せたように息を吐き出した。

「ドレスの礼はまた後でもらう。褒美とドレスは別物だ」

それでも答えない杏を鼻で嗤い、背を向けた。

「つまらぬな。
人間、誰しも少なからず欲を持つものだ。強欲は人間を壊すが、無欲というのも厄介なものだ。地位でも金でも男でも願えば良い。
お前の場合、叶えられないものもあるがな」

「では、王子。
私の親の名をお教えください」

それを聞いて、裕はゆっくりと四阿に佇む杏を振り返った。
彼女の目が強い意思を持って彼を射る。

良い目をしている。

親友の裏切りを受けても泣かない彼女。
いつだって、彼を見返す杏の瞳から光が消えたことはなかった。

それなら、消してやる。

「いいだろう」

そんな歪んだ気持ちが、唇に弧を描かせた。
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