闇夜に笑まひの風花を
殺される方がまだマシだった。

これから藻掻いて苦しんで生きても、その先に幸福は待っていない。
努力も何もかも、報われることなど死んでもない。
そうと分かっているのに生きることは、耐え難い地獄だ。
生きている意味など、皆無だ。
生きたまま目を抉られ、鼻や耳を削がれ、鞭で殴られ、人間らしく扱われない方がまだマシに思えた。

分かっている。
死が、逃げだということは。

例えば凶悪な罪を犯した者は、己の命にさえ感慨も価値も見出せず、死を望むことがある。
そういうものには、決して死刑は執行されない。
一生を牢の中で暮らし、悪夢に悶え苦しむ。
彼らには、生き続けることが罰だ。

また、王家の紋章を偽造した者が一族全て抹殺されるという罰だが、これも酷いもので、罪を犯した者は最後に殺されるのだ。
自分の最愛の妻や子供、育ててくれた父や母、彼とは関係がなくただ血縁と言うだけで殺される人。
彼らの断末魔や死に顔、それらを見せつけられ、心を砕かれ、泣き叫んで赦しを請うて、やっと殺してもらえる。

人間にとって、死ぬことは忘れること。
罪から逃げる方法だ。

だから彼は杏を殺しはしない。
決して。

それは、最も苦しい、責め苦である。

パチリ、と絶望の音が、杏を支配した。

< 71 / 247 >

この作品をシェア

pagetop