闇夜に笑まひの風花を
:舞
*****
「まったく、なんて格好をしてるんです。
ほら、ドレスを脱ぎなさい。それから、これをお飲みなさいね。落ち着くわ」
杏を抱えた侍女は、控え室の一室に彼女を押し込めると、手際良く指示をした。
思考が働かないので彼女の言う通りに動くものの、いちいち動きがゆっくりな杏のドレスを強引に剥ぎ、下着姿の杏に暖かいカップを渡した。
杏は椅子に腰掛けてその温もりを感じる。
そこで、彼女はやっと、手が悴んでいることに気づいた。
暖房が入れられ暖かい部屋だが、下着姿の杏にふわりと毛布が掛けられる。
「こんな寒い夜にこんな薄着でいるなんて、風邪を引きますよ。もう、こんなにも冷え切って。寒いとは思わなかったの?
まったく、殿下も殿下だわ。こんなに凍えている婦女を見れば上着の一つくらい……」
ぶつぶつと、侍女の独り言は続く。
彼女の凄いところは、口が動いていながら、手は動きを止めることなく、ドレスの汚れを確認し泥を叩き落としているところだ。
幸い、ドレスを引っ掛けて破いてしまったところはなかったようで、侍女が裁縫用具を引っ張り出すことはなかった。
杏はそれを横目に見ながら手の中のカップを持ち上げ、お茶を一口飲んだ。
ハーブの良い香りが鼻を擽り、熱い液体が喉を通る感触を味わう。
ふう、と杏は息を吐いた。
同時に身体から力が抜ける。
ツキリ、と左足首が痛んだ。
杏は顔を顰める。
痛みはそれほどではないけれど、これから裕の相手を務めるのに支障が出ないとも限らない。
失敗した……。
そのうちに背後に人の気配を感じると、髪を結っていた紐が解かれ、髪を櫛で梳かれた。
「殿下はあんたのこと、気に入ったんだねぇ」
感慨深そうに言われた言葉に、杏は苦笑する。
「いいえ。私は殿下に……嫌われていますから」
本当は憎まれているのだけれど、それを口にするのは憚られた。
けれど、侍女は声を立てて笑った。
「まったく、なんて格好をしてるんです。
ほら、ドレスを脱ぎなさい。それから、これをお飲みなさいね。落ち着くわ」
杏を抱えた侍女は、控え室の一室に彼女を押し込めると、手際良く指示をした。
思考が働かないので彼女の言う通りに動くものの、いちいち動きがゆっくりな杏のドレスを強引に剥ぎ、下着姿の杏に暖かいカップを渡した。
杏は椅子に腰掛けてその温もりを感じる。
そこで、彼女はやっと、手が悴んでいることに気づいた。
暖房が入れられ暖かい部屋だが、下着姿の杏にふわりと毛布が掛けられる。
「こんな寒い夜にこんな薄着でいるなんて、風邪を引きますよ。もう、こんなにも冷え切って。寒いとは思わなかったの?
まったく、殿下も殿下だわ。こんなに凍えている婦女を見れば上着の一つくらい……」
ぶつぶつと、侍女の独り言は続く。
彼女の凄いところは、口が動いていながら、手は動きを止めることなく、ドレスの汚れを確認し泥を叩き落としているところだ。
幸い、ドレスを引っ掛けて破いてしまったところはなかったようで、侍女が裁縫用具を引っ張り出すことはなかった。
杏はそれを横目に見ながら手の中のカップを持ち上げ、お茶を一口飲んだ。
ハーブの良い香りが鼻を擽り、熱い液体が喉を通る感触を味わう。
ふう、と杏は息を吐いた。
同時に身体から力が抜ける。
ツキリ、と左足首が痛んだ。
杏は顔を顰める。
痛みはそれほどではないけれど、これから裕の相手を務めるのに支障が出ないとも限らない。
失敗した……。
そのうちに背後に人の気配を感じると、髪を結っていた紐が解かれ、髪を櫛で梳かれた。
「殿下はあんたのこと、気に入ったんだねぇ」
感慨深そうに言われた言葉に、杏は苦笑する。
「いいえ。私は殿下に……嫌われていますから」
本当は憎まれているのだけれど、それを口にするのは憚られた。
けれど、侍女は声を立てて笑った。